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教員News(No.18)

作業療法学専攻
子ども達との記憶 (本多 ふく代)

時間は立ち止まらないものだから、自分が年を取った分、子どもたちもあっという間に大きくなってしまった。時々、子どもたちが子どもだったころの思い出がふと蘇り、何とも言えない心持ちにことがある。

 我が家の長男は大の乗り物好きだった(今でもそうだが)。毎日保育園から帰ると乗り物の絵本を持って来ては、私の膝に腰掛け、「これは何?」と車や電車の名前を言わせられ、覚えさせられた。週末になると東京駅に行き、新幹線ホームに行かされた。500系新幹線見たさに駅員さんに時間を聞いて待っていたものだった。長女は、お話やお歌が大好きで、毎日うた絵本の曲を歌わされ、寝る時には創作のお話をさせられた。繰り返しせがまれるので、怖い話をして早く寝ないとお化けが来るよと締めくくるのが常だった。毎日の日常だったけれども、いつの間にか過ぎ去って、戻ってこない時間である。子育て中には、その時を楽しんでいたかというと決してそうとは言い切れない気もするが、時々その時の子ども達の柔らかい感触や匂いを思い出し,ふっと笑顔になる。

 公共交通機関を利用していると、様々な親子に出会う。最近気になるのは、携帯電話や携帯ゲーム機と向き合う親子が多いことである。お母さんは携帯電話、子どもは携帯ゲーム機でそれぞれ遊んでいる。時々顔を合わせてお話をするが、すぐにそれぞれの手元へと視線は動いて行く。子どもを静かにさせておくには携帯ゲーム機はもってこいの道具なのだろう。他人様に気兼ねなく、公共交通を利用するには必需品なのかもしれない。傍で見ている私は、子どもとの大切な時間が失われている気がしてもったいない気持ちがわきあがって来る。「すごく高い陸橋だよ。」「あっ、動物がいる!」「トンネルは暗くてうるさいね。」共有できるものがいっぱいあるのに、この一緒の時間はもう戻ってこないのにと思ってしまう。

 人の記憶は、その時の感情によって強化されるという。記憶の中枢である海馬は、喜びや恐怖などの人間の情動をつかさどる扁桃体の働きに影響を受けると言われている。そのため、情動を伴う記憶は、定着がいいのは広く知られている。また、嗅覚?聴覚?体性感覚(触覚、痛覚)?味覚?視覚などの感覚が記憶や人の感情に大きく作用することも広く知られたことである。人は、様々な感覚体験をしつつ、それに付随した情緒を形成し、それが記憶となって人の大切な“思い出”となっていくらしい。時間は戻るものではないけれど、時々蘇るあの感覚やあの感情は大切な宝物として年寄りになっても持っていられるのだろうなと思うと、やはり子どもと様々な感覚を共有できる時間を大切にしてほしいと老婆心ながら思ってしまう。