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総合政策学部 総合政策学科

五〇の手習いハンドラー誕生

2018.12.18
総合政策学部教授 岡 惠介

 二〇一四年一一月、五歳の遅いデビューではあったが、ルカは晴れて災害救助犬となった。

 前の年には、一年に一度しかない認定審査に落ちてしまったルカだったが、その後の訓練の積み重ねで、彼女の捜索の能力は、急速に開花していった。
どこに隠れているのかまったくわからない広大な山林内を匂いで探し、要救助者の発見を告げる吠え声を繰り返す様子は、親バカと言われるのだろうが、惚れ惚れした。そして、私もここまで成長したルカと一緒に、捜索活動を行ってみたいという思いをつのらせていった。

 それまでルカのハンドラー(指導手ともいい、災害救助犬の捜索活動のハンドリングをする人)は、プロの犬の訓練士さんにお願いし、訓練士さんとのペアで災害救助犬に認定されていた。そのハンドラー役を私自身に変更し、積極的に災害時や山野での行方不明者の捜索に、関わっていきたいと考えるようになったのである。
 ルカのハンドラーになるためには、具体的には、秋の災害救助犬の認定審査会でルカとのペアで試験に合格する必要があった。

 試験は三種類あり、ひとつが服従の試験、次が山野捜索で捜索エリアに隠れている人を二人以上見つけること、三つめは瓦礫に擬したモノがたくさん置かれた納屋や倉庫内で隠れている人を二人以上見つけることであった。

 何と言っても難しいのは服従訓練だった。山野や瓦礫の捜索は、ハンドラーが一緒について探すわけではなく、立ち入り制限のラインが設定されていて、その先の捜索範囲を犬が単独で捜索する。ハンドラーは、犬の捜索への出発地点を決める程度で、発見できるかどうかは犬の能力次第の部分が大きい。

 服従試験は、定められた科目通りにハンドラーが発するコマンドで、犬を正確に動かせるかどうかの試験なので、ハンドラーの力量が問われるのである。

 そんなわけで二〇一五年に入ってから、私はプロの犬の訓練士さんのところへ通って、認定審査会の服従試験に合格するためのレッスンをルカとはじめた。五〇歳代も終盤に入ってからの、手習いの開始だった。

 私にはもう一つ、もくろみがあった。災害救助犬は災害の時だけでなく、山で山菜やキノコ採りで行方不明になった人の捜索もできる。これまで研究でお世話になってきた山村は、少子高齢化で消防団も弱体化し、地元で行方不明者が出ても自分たちで探すことが困難になってしまった。こうした、いわゆる限界集落問題に、救助犬の活用で解決の糸口を探れないか、と考えたのだった。