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総合政策学部 総合政策学科

災害救助犬の修業

総合政策学部教授 岡 惠介

東日本震災の後、何も出来ないでいる飼い主の私に命ぜられて、イエローラブラドールのルカは災害救助犬になるための勉強をはじめた。

一般に災害救助犬にはシェパード、ラブラドール?レトリバー、ゴールデン?レトリバー、ベルジァン?マリノア、ボーダー?コリーなどの犬種が向いていると言われているが、他の犬種でもなれないわけではない。震災時に海外からきた災害救助犬も、様々な犬種がいた。施設に保護されていた雑種のイヌが災害救助犬になった例もある。

しかし、百頭のイヌの中で災害救助犬になれるのは八頭、その中で優秀な災害救助犬になるのは四頭だけというデータもある。

しかもこのような作業犬を目指す場合は、盲導犬でもそうだが、一歳になる前後から訓練をはじめるのが普通である。

ルカは合格率八パーセントの、数字的には司法試験以上の難関に、二歳からの遅まきスタートで挑むことになってしまった。

周囲からは、せっかく楽しく暮らしている家庭犬に、そんな難しい訓練をさせる必要はないのではないか、という声もあった。もっともである。私もそんな迷いがなかったわけではない。

ただ、ルカというイヌは、前に飼っていたチャコと違って、自分の意志のようなものを示すイヌだった。私が面白くないことがあって、八つ当たり気味に彼女を叱ったりすると、ここで叱られるのは納得いかないという顔をした。ただ飼い主に甘えるだけではなく、自分の意志のようなものを感じさせるイヌだった。私の思い込みだったのだろうが、彼女は何かをやってみたいのではないか、という気がしていた。

週に二回のペースで、犬の訓練士さんが朝ルカを車で迎えに来て、練習後、夕方家まで送り届けてくれるという形で訓練はスタートした。  

最初は「服従訓練」からだった。服従訓練というと、嫌がるイヌを無理やりねじ伏せているようなイメージを抱いてしまう。だがこれは、イヌがきちんと人間の指示を理解して、その様に行動できるようになるための訓練で、本来家庭犬であっても施しておくべきものである。

教え方も、厳しく気合を入れる場面もないわけではないが、基本的には指示通りに出来れば、美味しいオヤツや遊びのご褒美が待っている楽しいものだった。

家でのルカの行動にさほど変化はなかったが、朝迎えの車のエンジン音を聞き分けて、玄関で早く出してくれとはりきり、自慢げな顔をして帰って来るようになった。