文字サイズ
総合政策学部 総合政策学科

あなたにとって水路とは何ですか。

総合政策学部准教授 馬内里美


「国見テラス」は、リレーエッセイであるが、前の内容を受けて書く必要はない(と思っている)。だが、テーマは「水路」、さらに科学技術学部の八十川准教授が案内役を務めた点でも共通している。バトンを受け継ぐ、といえば、リオ?オリンピックでの男子リレーだが、ケンブリッジ飛鳥選手ならぬバッキンガム歩亀で、前作の力走からたちまち失速してしまううえ、水物だけに内容も薄くなるのもご容赦願いたい。

九月に、堀DAYさんぽ堀なか歩きに参加した。高砂堀のなかを歩く貴重な体験ができることもあり、参加者も多く、地元のテレビ局も取材に来ている。

高砂堀は一度だけ見に来たことがある。百年前の仙台の地図と現代の地図を並べた『仙台地図さんぽ』の宮千代地区のページを参考に、古くからある道を辿った。地元の郷土史研究会の方々が有志で橋上に設置した堀の説明板、古地図では歩四センタクバと書かれている護岸にある日露戦争の「戦役紀念」碑、地名の由来である宮千代の碑を見て歩いた。

非灌漑期に入り、水は浅く、底もコンクリートで平に覆われているので比較的歩きやすい。橋下の護岸壁の古い石積は、古くからある橋の証拠だろう、と推測するのは楽しい。八十川先生の詳しい説明により、湧き水付近で小さな魚を見つけることができた。下流では上から眺めただけだが、魚が群れを成して威勢よく泳いでいるのには驚いた。

帰りがけにテレビ局の取材班からインタビューされ、感想を述べた後、更に尋ねられた。「あなたにとって高砂掘とは何ですか」

二度目の私に聞くのはお門違いだと思いながら、口から出るに任せて話した。その時になぜか思い出されたのは、一時期私の日常の一部になっていたどぶ川であった。地図によるとバッキンガム運河という名前である。当時は、澱みの臭いに閉口しながら、名前と現実の姿のギャップを面白がるだけだったが、後年調べてみると、距離も長く舟も行き交う運河だったそうだ。

人びとが生活するためには水の確保が不可欠である。生活を成り立たせる水は恵みである。水路は生活の基礎であり、人々の営みの歴史がある。しかし、時として水は暴れまわる。何度も水害に見舞われながら、人々は水路を整備してきた。特に岩手県沿岸部の台風被害も記憶に新しい今、その力に改めて畏怖を覚えると同時に、人々の努力に頭が下がる。

本当はそんなことを言いたかった。出任せのコメントは放送されないと確信していたが、放送されたそうだ。水に流してしまいたい。